Catalist市場への上場プロセス【Step 1-1】

前回からすっかり間があいてしまいました。急な出張で某国に行っておりました。(その出張報告は、また別の機会に写真付きで触れたいものです。是非!)

 さて、シンガポール証券取引所(SGX)カタリスト市場での株式に向けた取り組みプロセスですが、まず確認しておきたいことがあります。それは、IPOの目的は、企業が事業を拡大するための資金調達であること、さらに成長を加速するために2次、3次の資金調達を株式市場において行っていくこと、その収益拡大を通して投資家に株価や配当でリターンをもたらすというサイクルを作ることであるということです。もちろん、企業としての信用度、知名度の向上、より優秀な人材採用などのメリットもたくさんありますが、やはり事業拡大のための原資の獲得であることは、大前提でしょう。(それに対して、現在の日本の新興市場では、概して株価がPER10倍強しか付かないためまとまった額の調達ができず、しかも流動性が低いために2次、3次の調達が出来ないのに対し、内部統制などで上場維持コストばかりがかさんでしまう、という問題が起きています。とても残念でなりません。そもそも十分な利益の出ていない企業は上場さえさせてもらえません。内部統制で管理コストが上がってるのに利益のハードルが上がるなんて、「もうどうしろって言うの?」って感じです。)

 そのためには、企業としての投資魅力、そしてそれを具体的に描いたビジネスプランが、投資家を惹き付けられることが不可欠です。そもそも当たり前ですが、市場が日本だろうと海外であろうと、企業に将来的な魅力がなければ誰も投資をしません。これも大前提です。つまり、十分な収益性を見込めるビジネスを持っている企業が、資金という成長ドライバーを調達することによって、プランを現実のものに出来る、あるいはすでに始まった事業の成長を加速できる、規模の拡大によって収益性を向上できる、新市場や新たな顧客層の開拓によってビジネスチャンスを増やせる、競合他社に先んじてスピーディーにアクションを起こせる、などのストーリーが、具体的に見えることです。そのためのキーワードをまとめると、魅力をアピールする「収益性」と「成長性」、説得力を持たせる「実行力」と「継続力」、そして何より自社を際立たせる「差別化要素」、「独自性」のアピール、となります。

 そしてここから、シンガポール証券取引所カタリスト市場の話です。まずこの市場は、機関投資家向けです。多くの個人投資家のように短期売買で利益を得ようとするのはなく、数ヶ月から1年、あるいは何年にもわたってホールドし、中長期でリターンを得ようとする投資のプロが相手です。そんな彼らをを惹き付けるような、説得力のあるビジネスプランが必要です。また、この市場には中国や東南アジアをはじめ、広く世界中の企業が集まってくると予想されています(実際には、まだ2月から始まったばかりなので、今後の推移を継続的にウォッチする必要がありますが。)ですので、そうした各国の成長企業と比較した上で、その企業独自の特徴を明確にアピールできなければ、そっぽを向かれてしまいます。ただ日本企業というだけでは、誰も相手にしてくれないでしょう。
 では、日本市場だけでビジネスをしている場合は、上場できないのか? 必ずしもそうとは限りません。ドメスティックな事業でも、十分な投資魅力があれば、チャンスはあると思います。ただし、ここで私が提案しているのは、「カタリスト市場での上場をトリガーとするビジネスプランの再構築」です。つまり、せっかくこれからアジア全体で注目を集める市場を目指すのだから、「もしカタリスト企業になったら、アジアの視点でどんな新しいビジネス機会を作れるか」を、ブレインストーミングしてみたいのです。例えば、シンガポールを手始めに、タイやインドネシア、マレーシアなどの市場で、自分の企業にはどんなポテンシャルがあるのか、仮説ベースでディスカッションして、その可能性を探ります。またそれを具体化するのにも、必ず全部自前でやる必要はなく、各国の地元企業と事業提携すればいいですし、さらに相互にメリットが見込めるなら、資本提携に発展させる、あるいはM&Aで子会社化する、といった方法も考えられます。そしてこうしたマーケティングや提携、M&Aなどのアクションを起こすための資金を調達するために、カタリストに上場するのだ、というロジックを構築するわけです。

 カタリスト市場の検討プロセスは、日本市場を越えて広くアジア全般に視野を広げる、良い機会になると思います。今回の出張で、改めて痛感しましたが、アジア市場の成長とボーダーレス化は、ものすごいスピードで進んでいます。だからこそ、日本のベンチャー企業もその波に乗り、アジアのステージに上がって欲しいと、強く願っています。
(続く)

石崎 浩之
国際ビジネスコンサルタント
ブレインストームワールドワイド?代表
http://www.brainstormww.com/

今日のBGM:パット・メセニー・トリオ「Day Trip」
敬愛するパット・メセニーの新たな試み。ベース、ドラムとのシンプルなトリオ構成ゆえに、じっくりとギタープレイに集中することができます。さすが天才、誰と組んでも、どんな構成でも、独自の世界を作り出しています。しかし、常に新しい世界を開拓しようという果てしない探究心には、ただただ敬服するばかりです。特に10曲目が最高!