核保有論議を議論する

最近、麻生太郎外相の「日本も核保有について論議すべきだ」という発言が注目を集め、というか非難を浴び、罷免要求という意見まででている。これについて、個人的意見を述べたい。私は「改憲と軍備保有」、「核保有」について、日本もドンドン議論し、その内容を世界に発信するべきであると、強く思う。

ここではっきりさせておきたいのは、「軍備増強しろ」、「核を持て」と言っているのではない。大前提として、私は戦争が本当に嫌いだし、核の悲惨さはそれなりに感じているつもりだ。去年、広島の原爆記念館に行ったときには、本当に陰鬱な気持ちになったが、それを実際に起こった現実として目に入れたつもりだし、世界中の核保有国の首脳にも是非これを見せたいと、本気で思った。なにより、国や民族、そして言葉という様々な違いを超えて、いろんな人たちと交流を持つことは心底楽しいし、そこから新しいものが生まれる、創造の機会だ。
よってこの論理からすると、「核保有議論」は「やっぱり持つべきではない」という、始めから結論ありきの議論になる。そんな無駄な議論をすべきだというのはなぜか? そのプロセスそのものが、近隣諸国への抑止力になりえるからだ。それも、「言葉」という直接の破壊を伴わない武器による周囲への牽制、これこそが政治の力ではないか。

ここで、この麻生発言に対する各界の反応を見てみよう。まず、これまで「靖国」に言及するだけで過剰といえるまでの拒否反応を示した中国は、「核保有の可能性」に対してはほぼ無言だ。そりゃそうだ、自分が核保有国なんだから。中国は、北朝鮮の核実験に対する制裁措置協議に対しても慎重な姿勢を示しているのだから、日本が「核保有を議論してもいいんじゃないか?」程度の発言では反論のしようもない。それに、下手に発言すれば内政干渉として逆に日本の反発を食えば、中国自身の立場が悪くなる。だから、日本が正式に核実験に取り組むことを明言したら、途端に猛反発してくるだろうが、それまでは何も言えない。
韓国も沈黙を守っている。韓国は自分で核を保有していないものの、ほぼ同様のロジックで内政干渉してこない。
アメリカはどうだろう? 「日本の歴代の首相がアメリカ大統領を訪問し、『ボクたち同盟国だよねっ!! 』と擦り寄ってるから、有事の際には万難を排して守ってくれる」のだろうか? 私は、アメリカ政府はそんなに日本にとって都合のいいものじゃないと、断言します。それって、若い男が「ボクがこんなに○○子ちゃんのことを好きと思い慕ってるんだから、彼女もきっとボクを好きに違いない」というのと、ほぼ同様の思い込みだと考えています。少なくとも、自分がアメリカに行く回数を重ねる度に、その思いは強くなります。そもそも、中国や朝鮮半島で紛争が起こったら、アメリカがはるばる太平洋を渡ってきて日本を守ってくれるほど、アメリカの軍事力はすごいのか? それこそ、アメリカ軍が日本に到着する前に、日本の主要都市や原子力発電所に着弾してることでしょう。
これは仮説というか推測ですが、仮に日本が憲法改正して自衛隊を正式な国防軍に再編成したところで、アメリカはなにも反論しないし、それどころか内心で「やれやれ。これで日本政府も、自分で自分を守らなくちゃいけない、という意識をほんのちょっとは持ったか。」と呟やくことでしょう。

じゃ、日本の核保有に反発しているのは誰? 唯一国内の政治家たちだけじゃないですか。理由は、非核宣言した国としてけしからんから。ここで再度自分のスタンスをいいますが、日本は唯一の被爆国として、核戦争の結果何が起こるかを世界にまざまざと見せつけることの出来る存在として、核戦争反対を発信していくべきです。とはいえ、それだけでは自分たちを守れないし、近隣諸国の情勢が変化している時代において、なめられっぱなしのままでしょう。そうであれば、「核保有を議論する」というカードにより、周囲に「それもあり得ないわけじゃない」と思わせることは、悪いどころか、極めて有効な外交手段だと思います。

いまどき、コンビニのレジにもカメラが常時設置される時代です。このカメラは、決して人を傷つける機能を備えていなくても、そこにあるだけで犯罪者を思いとどめる力があります。それと同じことじゃないのかな。きょうび、日本国内の治安がこれだけ悪くなっているんだから、国際情勢はさらに潜在的な危険をたくさん有していて当たり前ですよね。例えば、「北朝鮮政権が崩壊し、難民が中国や韓国、そして日本に大挙して渡ってくる」なんてことだって、十分ありえます。というより、現状を見れば、それとほぼ同様のことが遅くとも数年内に発生する可能性のほうが、「今後も北朝鮮がこのまま継続する」という可能性よりよっぽど高いと思うし、少なくともそうなった場合の対応策を想定しておくことは、必要不可欠だと思います。

戦争反対、戦争撲滅!! 逆説的ですが、そのためにも(=戦争を起こさないためにも)、日本は自衛について聖域を設けず本気で取り組む、という姿勢を発信していくべきです。と、独り心の中で叫んでみました。他の人の共感を得られるかどうかは全くわかりませんが。

石崎 浩之
国際ビジネスコンサルタントhttp://www.brainstormww.com/